SCAJ 2025:コーヒーの未来と人とのつながりが交わる場所
東京ビッグサイトでの4日間を通じて、Black Samurai Coffeeが改めて実感したこと。それは、イノベーションは品質、産地、そして人とのつながりと結びついてこそ、大きな価値を生み出すということです。
2025年9月、Black Samurai Coffeeは、東京ビッグサイトで開催された SCAJ World Specialty Coffee Conference and Exhibition 2025(SCAJ ワールド スペシャルティコーヒー カンファレンス アンド エキシビション 2025)に参加し、世界各地から集まったコーヒー業界のプロフェッショナルたちと交流しました。
第20回目となるSCAJ 2025は、「Belong Together in Coffee(コーヒーでつながり、ともに歩む)」をテーマに、2025年9月24日から27日まで開催されました。会場には37の国と地域から約450の出展者が集まり、東京ビッグサイト南展示棟の4つのホールすべてを使用して、コーヒー、テクノロジー、機器、知識、そして業界を支えるさまざまな人々が一堂に会しました。
Black Samurai Coffeeにとって、SCAJへの参加は、単に最新の商品や技術を知ったり、これまで築いてきた関係を再び深めたりするためだけの機会ではありませんでした。
それは、市場の声にじっくり耳を傾け、コーヒー業界がどのように変化しているのかを理解し、アフリカのコーヒー生産地と日本のコーヒーコミュニティをつなぐという私たちの使命を、これからどのように進化させていくべきかを考える機会でもありました。

SCAJ 2025では、東京ビッグサイトに世界のコーヒーサプライチェーンを担う産地、バイヤー、ロースター、メーカー、そして業界関係者が一堂に会しました。
コーヒーのサプライチェーン全体が交わる場
SCAJの大きな特徴は、コーヒー産業のほぼすべての領域に関わる人々が、一つの場に集まることにあります。
生産者や産地関係者は、自らのコーヒーを直接紹介します。輸入業者やトレーダーは、供給状況、価格、物流について意見を交わします。ロースターは、風味や精製方法を評価します。機器メーカーは、新しい焙煎機や抽出システムなどを紹介します。また、バリスタ、カフェ事業者、教育関係者、消費者も、コーヒーの新しい楽しみ方や伝え方、提供方法について知識やアイデアを深めています。
主催者はSCAJを、スペシャルティコーヒーに関する製品、技術、知識を共有するとともに、業界の発展と専門家同士の交流を促進する国際的な展示会と位置づけています。
そのため、会場を歩くことは、まるでコーヒーのサプライチェーン全体をたどるような体験でもあります。産地から、精製、取引、焙煎、抽出、そして最終的な顧客体験に至るまで、コーヒーが価値を生み出していく一連の流れを、一つの空間で見ることができます。
Black Samurai Coffeeのように、コーヒーの輸入と日本市場での展開に取り組む事業者にとって、このように多様な知識と視点が集まる環境は非常に貴重です。
生産地が提供できるものと、現在日本のバイヤーが求めているものを比較しながら、市場の方向性を把握することができます。同時に、産地と市場の期待がどこで一致しているのか、そして、どの部分にさらなる取り組みや改善が必要なのかを理解するための重要な機会にもなります。

SCAJ 2025は、「Belong Together in Coffee(コーヒーでつながり、ともに歩む)」をテーマに、9月24日から27日まで東京ビッグサイトで開催されました。
イノベーションが広げるコーヒーの可能性
SCAJ 2025で特に強く感じたのは、コーヒーをめぐるイノベーションが進化し続ける、そのスピードでした。
会場では、焙煎、抽出、精製、パッケージ、機器、デジタルツール、そしてコーヒーの体験そのものに至るまで、さまざまな分野で新しいアイデアが紹介されていました。
私たちの目を引いたものの一つが、ティラミスやストロベリーなど、デザートを思わせる大胆なフレーバーコンセプトを追求したコーヒーです。こうした事例からは、業界全体が従来の「コーヒーらしさ」にとらわれず、新たな体験を生み出そうとする姿勢が感じられました。
こうした創造性には、大きな可能性があります。
新たな顧客層を取り込むことができ、ロースターにとっては差別化のための選択肢が広がり、コーヒーを楽しむシーンそのものを増やすことにもつながります。
一方で、イノベーションには重要な問いも伴います。
- そのフレーバーは、産地で生まれたものなのか、精製・加工、焙煎、あるいは焙煎後の工程によって生み出されたものなのか。
- その方法は、買い手や消費者に明確に説明されているのか。
- その品質を安定して再現できるのか。
- そのイノベーションはコーヒーそのものの価値を高めているのか、それとも本来の個性を覆い隠しているだけなのか。
- そして、生産者の貢献はどのように伝えられているのか。
Black Samurai Coffeeにとって、イノベーションが最も意味を持つのは、透明性によって支えられているときです。
新しいフレーバーや技術によって、産地の存在が見えなくなってはいけません。むしろ、その体験がどのようにつくられたのかを正確に伝えることで、人々がコーヒーをより深く理解し、楽しむことにつながるべきだと考えています。
この考え方は、フレーバーに関するイノベーションだけでなく、トレーサビリティ、デジタル化、サステナビリティにも当てはまります。
テクノロジーは、実際の意思決定をより良くし、不確実性を減らし、あるいは人と人との関係を強化するときにこそ価値を持ちます。コーヒーの品質、健全な事業運営、そして人との信頼関係に取って代わるものではありません。
品質は、今も変わらず最優先
SCAJでは非常に多くの創造的な取り組みが紹介されていましたが、同時に、ある根本的な事実を改めて実感しました。
どれほど優れたストーリーやテクノロジー、社会的な使命があっても、コーヒーそのものの品質に代わるものはありません。
日本のロースターやコーヒー事業者は、今もなお、風味、一貫性、用途、価格、そして信頼性といった観点からコーヒーを評価しています。
産地に関する情報は商品の価値を高めることができます。トレーサビリティは安心感を生み出します。生産者の背景やストーリーは、顧客がコーヒーを体験する価値をさらに高めることがあります。
しかし、これらが持続的な商業的価値につながるのは、コーヒーそのものが期待に応えられてこそです。
これは、Black Samurai Coffeeにとっても重要な姿勢です。
私たちは社会的なインパクトを重視しています。しかし、生産者やコーヒーコミュニティに継続的に貢献していくためには、まず持続可能な事業基盤を築く必要があります。
そのためには、
- 買い手の期待に応えるコーヒーを届けること
- 正確な商品・ロット情報を提供すること
- 安定した物流を実現すること
- 価格や取引条件について透明性を持って協議すること
- 継続的かつ丁寧にフォローアップすること
- 初回の取引後も、約束したことを確実に実行すること
が欠かせません。
SCAJを通じて改めて感じたのは、コーヒー業界の未来は「品質か、社会的な意義か」の二者択一ではなく、その両方をどのように実現していくかによって形づくられるということです。
人とのつながりは、コーヒー産業を支える基盤
SCAJで目に見えるのは、展示ブース、機械、コーヒーサンプル、競技会、プレゼンテーションなどです。
しかし、それと同じくらい重要でありながら、目に見えにくいのが人との関係を築くことです。
会期中、Black Samurai Coffeeは既存のクライアントやパートナーとの関係を改めて深めるとともに、新たなコーヒー業界関係者と出会い、今後の協業の可能性について意見を交わしました。
商談につながる会話もあれば、将来の可能性を探るための対話もありました。また、具体的な取引だけを目的とせず、相手の話に耳を傾け、それぞれの立場や現在の課題について理解を深める機会も多くありました。
こうした出会いが重要なのは、コーヒーの取引が商品情報だけで成り立つものではないからです。
それは、時間をかけて互いの
- 知識
- 意図
- コミュニケーション
- 信頼性
- 品質に対する期待
- 約束を実行する力
に対する信頼を築いていくことで成り立ちます。
展示会に参加するだけで、すぐにパートナーシップが生まれるわけではありません。
しかし、展示会は、新しい関係が始まる最初の会話を生み出したり、すでに築いてきた関係をさらに深めたりするきっかけになります。そこから、時間をかけて新たなパートナーシップへと発展していく可能性が生まれるのです。

SCAJ 2025でコーヒー業界関係者との交流を深めるBlack Samurai Coffeeのカミル・オルビソ。業界イベントは、関係を継続・発展させ、知識や意見を交換し、将来の協業の可能性を探る貴重な機会となります。
日本市場の声に耳を傾ける
Black Samurai Coffeeにとって、SCAJは日本市場を理解するための重要な情報源でもあります。
正式な市場調査や販売データは重要ですが、実際に業界関係者と直接会話することに代わるものではありません。
あるロースターとの会話からは、新しい産地のストーリーよりも、品質の安定性のほうが重要だということが分かるかもしれません。
卸売事業者からは、日本到着時の価格(landed price)、最低取引数量、納品時期が、実際の購入を左右する大きな要因だと教えてもらうことがあります。
カフェ事業者は生産者に関する情報に関心を持っていても、それがお客様に分かりやすく伝えられる情報であることを求める場合があります。
また、経験豊富な輸入業者との対話からは、供給リスクの変化、為替による価格への影響、買い手の行動変化など、市場データだけでは見えにくい情報を得られることもあります。
こうした一つひとつの対話が、私たちの仕事の進め方を見直し、改善するためのヒントになります。
具体的には、
- どのエチオピア産コーヒーを優先的に取り扱うべきか
- ロットを評価する前に、買い手がどのような情報を必要としているか
- サンプルをどのように提示すべきか
- 数量や価格について、どのように提案・協議すべきか
- 新たなアフリカ産地が日本市場での展開に適した段階にあるか
- どのようなトレーサビリティ情報が、実際に買い手にとって有用なのか
- 取引を始める前に、どのパートナーシップについてさらなる準備が必要なのか
といった判断に影響します。
だからこそ、市場開拓は一度きりのキャンペーンではありません。
それは、耳を傾け、試し、届け、そして学び続けるという継続的なプロセスです。

SCAJでの非公式な会話からは、バイヤーが重視すること、市場の状況、そして長期的なコーヒー取引において実際に求められる条件について、多くの示唆を得ることができます。
アフリカの産地に必要なのは、認知度だけではない
SCAJは、生産国や産地に根ざした組織にとって、自らのコーヒーを日本市場に直接紹介する重要な場となっています。
2025年の展示会には、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの各地域から多くの生産国・地域が参加しました。例えば、フェアトレード・ジャパンからは20を超える生産者やコーヒー業界関係者の参加が発表され、会場ではエチオピアやケニアを含むさまざまな国のコーヒーが紹介されました。
認知度を高めることには大きな価値があります。しかし、認知度だけで持続可能な市場を築くことはできません。
アフリカのコーヒー産地が日本で長期的な取引関係を築いていくためには、バイヤーにとって、以下のような要素も必要になります。
- 安定したコーヒー品質
- 信頼できるサンプルと明確な仕様
- 明確な価格・供給可能数量の情報
- 信頼性のある輸出業者・サプライパートナー
- 無理なく運用できる物流体制
- 現実的な納期
- 検証可能な産地・ロット情報
- 特別な収穫年だけで終わらない継続性
ここに、Black Samurai Coffeeが貢献できる役割があります。
私たちの役割は、単に日本のバイヤーに「アフリカのコーヒーには独自の魅力がある」と伝えることではありません。
その独自性を、バイヤーが評価し、信頼し、継続できる供給関係へとつなげていくことが、私たちの責任だと考えています。
そのためには、双方を理解する必要があります。
産地側では、生産体制、精製方法、供給可能性、品質のばらつき、そして生産者組合や輸出業者が直面している現実を理解しなければなりません。
日本側では、バイヤーが求める条件、想定される用途、価格上の制約、意思決定のプロセス、そしてサービス面での期待を理解する必要があります。
アフリカと日本の間の橋渡しは、こうした双方の事情を理解し、互いに伝わる形へと翻訳することによって生まれます。
サステナビリティは、商業的な現実と結びついてこそ意味を持つ
サステナビリティもまた、SCAJの幅広いプログラムの中で重要なテーマの一つでした。
会期中には、コーヒー産業が抱える気候変動や人権上のリスクについて議論が行われる一方、生産者や各種団体からは、フェアトレード、品質向上、責任ある調達に向けた取り組みが紹介されました。
こうした議論の重要性は、ますます高まっています。
コーヒー生産地域は、気候変動による圧力、収穫条件の変化、コスト上昇、そして先行きの不確実性に直面しています。
同時に、バイヤー側にも、コーヒーが「どこから来たのか」、そして「どのような条件のもとで生産されたのか」をより深く理解することが求められています。
しかし、サステナビリティは単なるラベルやコミュニケーション上のテーマにとどまるべきではありません。
それが実質的な価値を生み出すためには、以下のような具体的なビジネス上の問いと結びついている必要があります。
- バイヤーは再び購入してくれるのか。
- その価格は双方にとって事業として成立するのか。
- 品質を維持できるのか。
- 生産者や組合は、求められる情報を提供できるのか。
- 追加のデータ収集や報告にかかる費用を誰が負担するのか。
- その取引関係は、産地側におけるより高い予見可能性の創出につながるのか。
- 市場からのフィードバックを、実際の改善につなげることができるのか。
Black Samurai Coffeeでは、持続可能な調達は、継続可能な取引から始まると考えています。
生産者のストーリーは、そのコーヒーを継続的に購入する顧客と結びついたとき、より大きな意味を持ちます。
トレーサビリティは、それが実際の購買判断の改善につながることで、より有効なものになります。
そしてインパクトは、誰が何を担い、どのようなコストが発生し、どのような成果を目指すのかが明確に理解されているとき、より確かなものになります。
私たちにとって「Belong Together in Coffee」とは
SCAJ 2025のテーマであった「Belong Together in Coffee」は、Black Samurai Coffeeにとって非常に強く響くものでした。
コーヒー業界に「ともに属する」ということは、単に同じ展示会場に集まること以上の意味を持つべきです。
それは、コーヒーサプライチェーンのすべての存在が、互いに支え合っていることを認識することだと考えています。
生産者には、継続的な市場へのアクセスが必要です。
ロースターには、品質、継続性、そして信頼できる情報が必要です。
輸入業者には、産地と仕向地の双方において、信頼できるパートナーが必要です。
消費者には、楽しむことができ、理解しやすく、誠実なコーヒー体験が必要です。
そして業界団体や展示会には、知識、基準、そして人と人との関係を育てられる場をつくる役割があります。
Black Samurai Coffeeにとって、「ともに属する」ことには責任も伴います。
アフリカと日本の間に立つ事業として、私たちはどちらか一方から価値を引き出すだけではなく、双方のコミュニティの一員として関わっていかなければなりません。
そのために私たちは、
- 解決策を提案する前に、日本のバイヤーの声に耳を傾けること
- 市場からの期待を、産地のパートナーに責任を持って伝えること
- 一つひとつのコーヒーロットの背景にある仕事を理解し、尊重すること
- 日本のコーヒー業界のコミュニティに貢献すること
- 経験豊富な業界関係者から学び続けること
- アフリカの産地に新たな機会をつくりながらも、その準備状況を過度に評価・表現しないこと
を大切にしています。
「ともに属する」ということは、受け身であることではありません。
それは、貢献することによって示されるものです。
SCAJ 2025から私たちが持ち帰ったもの
東京ビッグサイトでの4日間を通じて、私たちの今後の取り組みにおけるいくつかの重要な優先事項が、改めて明確になりました。
1. 品質は、これからも商業的な基盤であり続ける
コーヒーはまず、風味、安定性、そしてバイヤーの用途への適合性によって、その価値を認めてもらう必要があります。
2. イノベーションには明確なコミュニケーションが必要
新しい精製方法、焙煎技術、フレーバーづくりの手法については、バイヤーが何を評価しているのかを正しく理解できるよう、透明性を持って説明する必要があります。
3. トレーサビリティは意思決定を支えるものであるべき
産地やロットに関する情報は、実用的で信頼でき、購買判断に関連するものでなければなりません。技術的に収集できるからという理由だけで、情報を集めるべきではありません。
4. 関係には継続性が必要
一度の商談が成功しても、それは始まりに過ぎません。信頼は、その後のフォローアップ、納品、そして継続的な関わりを通じて築かれます。
5. アフリカの産地開発は、需要主導でなければならない
新たな産地を紹介する際には、単なる目新しさではなく、実際のバイヤーの関心、適切な品質、成立する経済性、そしてサプライヤー側の準備状況を基準とすべきです。
6. コミュニティへの参加には意味がある
Black Samurai Coffeeは、日本のコーヒー業界の一員として学び、貢献し続ける必要があります。業界の周縁にいるだけではなく、積極的に関わっていくことが重要です。
これからに向けて
SCAJ 2025は、コーヒー業界がより多様になり、創造性を増し、技術的にも高度化していることを示しました。
同時に、良いコーヒービジネスの基盤となるものは、驚くほど変わっていないことも示しました。
品質。
信頼。
知識。
実行力。
そして、人との関係。
Black Samurai Coffeeは、今後もエチオピア産コーヒーの供給体制を強化し、産地やロットに関する情報の伝え方を改善し、日本のバイヤーの声に注意深く耳を傾けながら、アフリカの新たなコーヒー産地に関する機会についても慎重に検討していきます。
また、日本のコーヒー文化を支えている専門的なコミュニティにも、これからも継続して参加していきます。
私たちの目的は、単により多くのコーヒーを紹介することではありません。
アフリカの生産者と日本のコーヒー業界関係者が、互いをより深く理解し、ともに価値を生み出し、最初の一取引で終わることなく、継続して仕事を続けられる関係を築くこと。
それこそが、私たちが目指していることです。
SCAJは、業界が一堂に会するための場を提供してくれます。
その場を離れた後に、私たち一人ひとりが何を持ち帰り、何を次の行動につなげるのか。
そこにこそ、次の意味があるのだと思います。
コーヒーの未来を形づくるのは、イノベーションだけではありません。
イノベーション、品質、産地、そして人を、私たちがどれだけ責任を持ってつなげていくかによって、その未来は形づくられていきます。

SCAJ 2025は、コーヒーの未来が「品質・イノベーション・産地・人」をつなぐことによって築かれていくことを、改めて私たちに気づかせてくれました。